そろそろ年末の風情が漂ってまいりました、年末と云えば「寅さん」もう新作を見ることは出来ませんが、ダーティ工藤の映画的生活より再編集「勝手に寅さん映画ランキング」をお贈りいたします。 ■どーんと18位から始まります <笛の音> 第18位 『男はつらいよ 寅次郎紙風船』 (81・松竹)カラーワイド 101分 (監督・原作・脚本)山田洋次 (脚本)朝間義隆 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)出川三男 (編集)石井巌 (助監督)五十嵐敬司 (企画)小林俊一 (製作)島津清、佐生哲雄 (出演)渥美清、倍賞千恵子、音無美紀子、岸本加世子、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、太宰久雄、佐藤蛾次郎、吉岡秀隆、笠智衆、小沢昭一、犬塚弘、前田武彦、東八郎、地井武男、杉山とく子、関敬六、谷よしの (評)今回のマドンナは、テキヤ仲間カラスの常(小沢昭一)の女房光枝(音無美紀子)。寅は旅先で常が病気と聞いて見舞いに寄るが、帰り道で送ってくれた光枝に「もう長くない」と聞かされる。一本道をらむせび泣きながら帰る光枝を、寅が何とも言えぬ表情でジーッと見送るシーンは、ふたりの複雑な出会いと不幸な別れを暗示しているかのようで印象深い。実はその前に寅は常から「俺が死んだらあいつをお前の女房にしてくれ」と頼まれており、その時は冗談めかして聞いていたのだが、光枝が東京に出てくるにおよんで俄然真実味が増してくる。寅は光枝の泣き声が「笛の音に聞こえた」とのろけ、例によって結婚妄想を開始する。だが寅は光枝が真剣だと悟るに及んで、前作同様またしても逃げ腰となり、結局まとまる話もまとまらなくなってしまう。光枝は寅以上に極道もんの亭主の女房を勤め上げた女である。ある意味、リリー以上に寅に相応しい女房は彼女なのではないかと思う。それだけに、寅のいつもながらのへタレぶりというか愚行には、いつも以上に腹が立つというか情けなく思ってしまうのだ。光枝を演じる音無美紀子が、テキヤの女房を好演しているのも手伝ってフッと、彼女と寅には一緒になって幸せになってほしいなぁと思ってしまったのだ。あとサブキャラだが、旅先で寅の舎弟のようになる家出娘愛子(岸本加世子)の配し方も良く、彼女と寅の笑顔で終わるラストも後味がいい。 (点)70点 <甘露じゃの〜> 第17位 『男はつらいよ 寅次郎と殿様』 (77・松竹)カラーワイド 99分 (監督・原作・脚本)山田洋次 (脚本)朝間義隆 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)出川三男 (編集)石井巌 (殺陣)足立怜二郎 (企画)高島幸夫、小林俊一 (製作)島津清 (出演)渥美清、倍賞千恵子、真野響子、嵐寛寿郎、三木のり平、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、太宰久雄、佐藤蛾次郎、中村はやと、笠智衆、吉田義夫、寺尾聰、平田昭彦、岡本茉莉、斉藤美和、谷よしの、露木幸次、上條恒彦<友情出演> (評)今回はタイトルからも分かるように、マドンナよりも殿様を演じるアラカンこと嵐寛寿郎と寅の共演がフューチャーされている。アラカンの全盛時代を知るオールドファンには、特に楽しい内容となっている。愛媛県伊予大洲に続く藤堂家の殿様(アラカン)が、寅が落とした5百円札を拾ったことから寅と知り合いになる。寅はお礼にラムネをご馳走すると、アラカンが「甘露じゃの〜」と浮世離れした感想をいうのがおかしい。寅はそのままアラカンの屋敷に招待されるのだが、そこの執事を演じているのが三木のり平で、アラカン、のり平、渥美という豪華な組み合わせが見られるのはこの作品だけの贅沢といえよう。殿様は寅に身分違いの結婚をしたため勘当した息子が死んでしまった。今は深く後悔しており息子の嫁に直接会って詫びたいので捜してくれと頼む。例によって安請け合いをした寅だが、東京に住む鞠子ということしか手がかりがなく、さくらたちを散々悩ませるが、ひょいとその鞠子がとらやを訪ねてくる。実は彼女は大洲で寅と知り合った娘であった。ここから寅がマドンナに片思いをするいつものパターンとなるのだが、今回はアラカンが主役なので義父と義娘の物語が全面に押し出されている。再会したふたりが夕陽の荒川土手を連れ立って去っていくシーンが美しい。晩年のアラカンは往年を知るものにとっては、必ずしも恵まれたキャリアとは言えないが、本作はまごうことなき晩年の代表作と言えよう。我らがアラカンを厚遇してくれた山田組のスタッフ、キャストに感謝だ。 (点)70点 <備前高梁> 第16位 『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』 (83・松竹)カラーワイド 105分 (監督・原作・脚本)山田洋次 (脚本)朝間義隆 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)出川三男 (録音)鈴木功、松本隆司 (照明)青木好文 (編集)石井巌 (助監督)五十嵐敬司 (企画)高島幸夫、小林俊一 (製作)島津清、中川滋弘 (出演)渥美清、倍賞千恵子、竹下景子、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、太宰久雄、吉岡秀隆、佐藤蛾次郎、笠智衆、松村達雄、中井貴一、杉田かおる、レオナルド熊、あき竹城、長門勇、関敬六、人見明、石倉三郎、梅野泰靖、穂積隆信、八木昌子、マキノ佐代子、大杉侃二郎、谷よしの、岡島艶子、森口遥子、森山徹 (評)第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』(71)に続き久々に博の父の故郷岡山県備前高梁が舞台となる。博の父役の志村喬はこの映画の前年82年に亡くなっており、志村への追悼の意味も込めて本作品を企画したのかもしれない。墓参りに立ち寄った寅は、墓地を管理する寺の和尚(松村達雄)の娘朋子(竹下景子)に一目惚れ。ひょんなきっかけから納所坊主という坊主の代理をやることになるが、そこはタンカ売で鍛えたトークで地元の檀家には大好評。墓参りへやっきた博とさくらは、坊主になっている寅にびっくり。やがて寅が婿養子に入り朋子と結婚し寺を継ぐのではないかという噂が出始める。噂の出所はカメラ屋で、演じる長門勇が得意の岡山弁で笑いを誘う。そんな噂も当然耳に入っている和尚は、風呂に入りながら外で薪をくべている朋子に寅との結婚の話をする。だが、いつの間にか寅が来ており耐えかねた朋子は逃げてしまう。和尚はある予感がして窓を開けると寅と目が会う。ここでふたりが、「あっ」「あっ」とお互い二回ずつ驚く間が絶妙で、渥美と松村の長い共演の歴史を感じさせる爆笑名シーンであった。このあといたたまれずに逃げるようにとらやへ帰った寅を追うように朋子がやってくるのだが、例によってへタレの寅はおとぼけで逃げの一手。半ばあきれて岡山へ帰る朋子を柴又駅で見送った寅は、さくらに自嘲気味に「へへ、というお粗末さ・・・」というのだが、ここまでくるといかにシリーズを続けさせるためとはいえ無理があるというか腹立たしくなる。それほど竹下景子のマドンナ役はいい感じだったのである。それは山田監督もそう感じたようで、この後も役名を変えて2度も登場する。今回はストーリーの大半が備前高梁で展開しとらやのパートが少ない異色作だがシナリオがよくポイントを押さえており、竹下景子、松村達雄、長門勇らの好演もあり久々の快作に仕上がっている。 (点)70点 <「あたし、来ちゃった」> 第15位 『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』 (74.松竹)カラーワイド 104分 (監督・原作・脚本)山田洋次 (脚本)朝間義隆 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)佐藤公信 (録音)中村寛 (照明)青木好文 (編集)石井巌 (スクリプター)長谷川宗平 (監督助手)五十嵐敬司 (企画)高島幸夫、小林俊一 (製作)島津清 (出演)渥美清、倍賞千恵子、吉永小百合、宮口精二、松村達雄、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄、佐藤蛾次郎、中村はやと、笠智衆、高田敏江、小夜福子、高橋基子、泉洋子、吉田義夫、武智豊子、光映子、石原昭子 (評)第9作『男はつらいよ 柴又慕情』(72)の続編というシリーズ初のこころみで、マドンナの吉永小百合が再登場する。続編のいいところは、前回でマドンナのキャラクターやシュチュエーションの紹介が済んでいるので、ストーリーをより深く掘り下げられることだろう。そんなわけで今回は、前回では紹介程度であった歌子(吉永小百合)と厳格な父(宮口精二)との関係が、ほぼメインテーマとして語られる。最後は大方の予想通り父と娘の涙の和解でめでたしめでたしとなり、勿論寅もそれに大きく関与しているのだが、その分寅の恋物語はかなり脇へ追いやられてしまった。この辺はシリーズも終盤になり、成人した満男のために自分の恋はさておき、恋のキューピットとして奮闘する寅の萌芽が見られる。吉永は前作の固さが取れて彼女らしい真摯なキャリアウーマンを生き生きと演じてかなり魅力的である。特に死んだ夫の実家を飛び出し、とらやへやってきて寅と再会し「あたし・・・きちゃった」とちょっとはにかみながら言うシーンがいい。吉永のつぶらな瞳がキラキラと輝き、こりゃ寅ならずとも惚れちまうな。尚、二代目おいちゃん役の松村達雄は本作が最後で、ショートリリーフながら、初代おいちゃん森川信の後釜という難しい役どころを実に無難に乗り切ってくれた。松村はおいちゃん役としては最後だが、違う役どころでこの後も登場するのが嬉しいねェ。 (点)70点 ■マドンナの真打早くも登場 <松岡清子> 第14位 『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』 (73・松竹)カラーワイド 99分 (監督・原作・脚本)山田洋次 (脚本)宮崎晃、朝間義隆 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)佐藤公信 (録音)中村寛 (照明)青木好文 (編集)石井巌 (スクリプター)堺謙一 (監督助手)五十嵐敬司 (企画)高島幸夫、小林俊一 (製作)島津清 (出演)渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、松村達雄、三崎千恵子、前田吟、太宰久雄、佐藤蛾次郎、笠智衆、中村はやと、吉田義夫、織本順吉、中沢敦子、成田みるえ、江戸家小猫、北原ひろみ、毒蝮三太夫 (評)今回はマドンナ中のマドンナ、リリー松岡(本名、松岡清子)こと浅丘ルリ子が初登場する。彼女は本作の好演を受けて、第15作『男はつらいよ 寅次郎相合傘』(75)、第25作『男はつらいよ ハイビスカスの花』(80)、そして第48作の最終作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(95)と以上計4回というマドンナとしては最多登場を果たしている。リリーが他のマドンナと全く違うのは、彼女はドサ回りの歌手という寅と同様根無し草だということだ。したがって寅としては憧れではなく同志としてのシンパシーを持っている。ただ惚れマニアの寅としては、当然の如くリリーに恋してしまい、彼女も憎からずというよりも惚れており、いわば相思相愛なのだが、お互い自分の中のつまらないエゴイズムのために幸福なる帰結をみすみす逃してしまうというのが、寅とリリーの長い恋物語なのである。ここでは本名や実母を含めたリリーのプライベートも描かれており、彼女がとらやという帰る場所のある寅と違って、真の意味での根無し草であることがよくわかる。だからこそ深夜寅に会いにとらやに泥酔してやってくるが、寅に「ここは堅気の家だから静かにしてくれ」と言われてしまい「寅さんなんか大嫌いだよ!」と飛び出して行くシーンは、彼女の絶対的な孤独感がひしひしと伝わってくる名シーンであった。あとリリーと寅が始めて会うのが、旅先の北海道網走の港というのもムードがあってよかったね。 (点)70点 <「リリー、俺と所帯持つか」> 第13位 『男はつらいよ ハイビスカスの花』 (80・松竹)カラーワイド 104分 (監督・原作・脚本)山田洋次 (脚本)朝間義隆 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)出川三男 (録音)鈴木功、松本隆司 (照明)青木好文 (編集)石井巌 (スチール)長谷川敬司 (助監督)五十嵐敬司 (企画)高島幸夫、小林俊一 (製作)島津清 (出演)渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、太宰久雄、佐藤蛾次郎、中村はやと、笠智衆、江藤潤、新垣すずこ、金城富美江、間好子、伊舎堂正子、伊舎堂千恵子、一氏ゆかり、光石研、比嘉美也子、谷よしの (評)『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(75)以来、浅丘ルリ子の松岡リリーが3度目の登場。今回は最初から最後まで寅とリリーが出ずっぱりで、仮同棲までしてしまうという通常シリーズをスピンアウトしたような構成がうまくはまった内容となった。旅先の沖縄で入院していると、とらやへ寅あてにリリーからの手紙が届く。折りよく帰っていた寅は、矢も盾もたまらず沖縄へかけつける。久々に再会した寅とリリーの喜びは、このふたりでなければ出せない幸福感にあふれている。退院したリリーと寅は、床は別にしてはいるものの外から見ると同棲状態のようになる。リリーは寅とこのまま所帯を持つことを希望しているが、こうなると元来のフーテン気質が邪魔してイキなタンカ売のようにはいかない。結局、業を煮やしたリリーがひとり東京へ帰ってしまい、寅も行き倒れになりながらもとらやへたどり着く。とらやで再びリリーと再会した寅は、思わず「リリー、俺と所帯持つか〜」とつぶやくが、すぐに我に返り「俺、今、何か言ったかな?」ととぼけてしまう。これにはリリーもさくらも苦笑するしかない。この後、柴又駅から旅に出るリリーを寅とさくらが見送るシーンがいい。前夜の寅の発言に対する3人の微妙な心理の動揺をちらつかせながら、表面は平静を保っている様が短いシーンの中に的確に描写されており、寅とリリーの恋物語のひとつの帰結をしめしたような名シーンといえよう。だからこそラストに旅先で寅とリリーが再会するシーンは映画的な後味はいいものの、せっかくの駅での別れの名シーンをいささかだいなしにしてしまったような気がするのである。 (点)70点 <三船ちゃん> 第12位 『男はつらいよ 知床慕情』 (87・松竹)カラーワイド 107分 (監督・原作・脚本)山田洋次 (脚本)朝間義隆 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)出川三男 (録音)鈴木功、松本隆司 (照明)青木好文 (編集)石井巌 (スチール)長谷川宗平 (助監督)五十嵐敬司 (企画)小林俊一 (プロデューサー)島津清、深澤宏 (出演)渥美清、倍賞千恵子、三船敏郎、竹下恵子、淡路恵子、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、太宰久雄、吉岡秀隆、佐藤蛾次郎、笠智衆、美保純、すまけい、赤塚真人、油井昌油樹、イッセー尾形、マキノ佐代子、関敬六、笹野高史、冷泉公裕、出川哲朗 (評)今回も寅が煮え切らない男女の仲立ちをしてやるというルーティンワークながら、その男女が三船敏郎と淡路恵子というのがミソである。北海道知床の大自然をバックに三船演じる無骨な獣医が、淡路演じるスナックのママに、「惚れてる・・・悪いか」と彼なりの愛の告白をするのだが、それが実に様になっているのは不世出の大スター、三船敏郎の圧倒的な存在感に他ならない。『野良犬』(49・黒澤明)の若き三船と淡路の瑞々しい初共演への山田洋次なりのオマージュが、全編に渡って捧げられている。渥美と三船の共演は過去に、『太平洋の嵐』(60・松林宗恵)、『太平洋の翼』(63・松林宗恵)と2本あるが、渥美がまだ助演時代で大スター三船の共演というにはおこがましいものがあり、今回が最初で最後のがっぷり四つに組んだ本格的共演といえる。二人の共演ぶりは名優同士のあ、うんの呼吸というやつで、実に楽しく安心して観ていられる。寅の冗談に笑う三船の図など実にオツなもんである。ただ欲をいえば二人とももう少し若い頃に本格的共演をしていれば、文字通り火花散る共演ぶりが観られたのではないかとついつい妄想を走らしてしまう。前半のおいちゃんが入院して寅が店を切り盛りしようとするが、あまりの役立たずぶりに周囲があきれ返るエピソードも笑わせてくれる。シリーズ後半の代表作のひとつである。 (点)70点 <シラノ・ド・ベルジュラック> 第11位 『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』 (82・松竹)カラーワイド 106分 (監督・原作・脚本)山田洋次 (脚本)朝間義隆 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)出川三男 (編集)石井巌 (企画)小林俊一 (製作)島津清、佐生哲雄 (出演)渥美清、倍賞千恵子、田中裕子、沢田研二、前田吟、下條正巳、三崎千恵子、太宰久雄、吉岡秀隆、佐藤蛾次郎、笠智衆、内田朝雄、児島美ゆき、真淵晴子、殿山泰司、桜井センリ、朝丘雪路、アパッチけん(中本賢)、光石研、谷よしの、高城美樹、笠井一彦 (評)この映画での共演が縁で結婚したと噂される沢田研二と田中裕子のカップルを、寅が映画の中でも「シラノ・ド・ベルジュラック」よろしくサポートする華やかな一篇。最も自分の愛する女性を友情のためにあきらめ、友人の愛の成就のためにサポートするシラノの苦渋に満ちた心境を思うと、寅の場合はそれほど深刻ではないのかもしれない。ただ旅の出際に寅がさくらに「やっぱり二枚目はいいなあ・・・、ちょっぴり妬けるぜ」と言うのを聞くと、寅は寅なりに現実を噛み締めていたんだなとちょいと目頭が熱くなってしまう。口下手な二枚目を演じる沢田研二は、時々コントの寸劇をやっているように見えてしまうのは、志村けんとの爆笑コントが印象に残っているせいかもしれない。でもやはり恋に揺れる女心を独特のアンニュイな雰囲気で演じる田中裕子が、圧倒的に素晴らしい。演技の質は違うが、大竹しのぶに通じる女優としての芯を感じさせる。共演者を光らせてくれるタイプで、沢田も彼女とよっぽとウマがあったので一緒になったのだろう。彼女のマドンナで製作が予定されていた第49作『男はつらいよ 寅次郎花へんろ』を観たかったなぁ。 (点)70点 ■10・9位は異色作品。 <「おちめだな〜ぁ」> 第10位 『男はつらいよ フーテンの寅』 (70・松竹)カラー 90分 (監督)森崎東 (原作・脚本)山田洋次 (脚本)小林俊一、宮崎晃 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)佐藤公信 (録音)鈴木正男 (照明)青木好文 (編集)杉原よ志 (スチール)梶本一三 (企画)高島幸夫 (製作)上村力 (出演)渥美清、倍賞千恵子、新珠三千代、香山美子、森川信、三崎千恵子、前田吟、笠智衆、佐藤蛾次郎、太宰久雄、花澤徳衛、春川ますみ、野村昭子、悠木千帆、佐々木梨里、高野真二、晴乃ピーチク、晴乃パーチク、山本幸栄、左卜全 (評)山田洋次が多忙につきテレビ版のシナリオ・メンバーでもある森崎東が監督。同じ松竹でも、山田と森崎では資質が全く違う。端的に言えば言いにくいことをストレートに言うことに照れを感じ、屈折した物言いにダンディズムを感じているのが山田であり、その逆に言いにくいこともストレートに言うことによって乗り越えていこうとするバイタリテイをよしとするのが森崎である。本作でも基本的なストーリーのルーティンは踏まえながらも、寅を始め登場人物たちは実に言いたいことを言いまくり、ふてくさりまくるのだ。寅に対する周りの仕打ちも、本作では容赦ない。あえて逃げ場であるとらやのシーンを少なくしたのも、テキ屋としての寅の厳しい現実を描きたかったからだろう。山田洋次色一色となる前の過度期の一篇として、森崎東印を刻印した佳作である。 (点)70点 <テレビ版の味わい> 第9位 『新・男はつらいよ』 (70.松竹)カラー 92分 (監督)小林俊一 (原作・脚本)山田洋次 (脚本)宮崎晃 (撮影)高羽哲夫 (音楽)山本直純 (美術)宇野耕司 (照明)青木好文 (編集)石井巌 (スクリプター)久保哲男 (企画)高島幸夫 (製作)斉藤次郎 (出演)渥美清、倍賞千恵子、栗原小巻、財津一郎、三島雅夫、横内正、森川信、三崎千恵子、前田吟、津坂匡章(秋野太作)、佐藤蛾次郎、太宰久雄、笠智衆、浜村純、佐山俊二、二見忠男、谷よしの、村瀬幸子、水木涼子 (評)山田洋次が多忙につき前作に続き監督がチェンジしている。今回はテレビシリーズ全26作を演出した小林俊一が抜擢され、映画監督デヴューを果たしている。ストーリーはテレビで好評だったエピソードが、映画用にうまくアレンジして使われている。特に「寅が競馬で一儲けしたがどうせすっちまったんだろう」という話をタコ社長の回想で聞かせておいて、お宝を持って意気揚々とタクシーで凱旋する寅につなげるという構成のおかげで、その後のとらやの人々のリアクションがべらぼうに面白くテレビ版より数段垢抜けて大笑いさせられる。小林が過不足なく監督していることもあり、渥美清以下出演者の納まりもよく、テレビシリーズに一番近い雰囲気の作品に仕上がっている。また映画では財津一郎が泥棒役をやっているのだが、テレビ版の泥棒役佐山俊二が、ご近所のおっちゃん役でエピソードにからんでいるというキャスティングも楽しい。 (点)70点 ■いよいよ、若尾文子・八千草薫の登場です 後藤久美子ちゃんはランキングならずでした、惜しい!
本名、工藤公一。北海道倶知安町生まれ。少年時代、その頃では珍しかったテレビが家庭にあり、大量の映像に触れる。力道山時代の日本プロレス・大瀬康一主演の「月光仮面」「隠密剣士」、松山容子主演の「琴姫七変化」などが当時のお気に入りだった。映画の最初の記憶は幼稚園の頃に観た藪下泰司監督の『こねこのらくがき』(57.短篇)。19歳で上京、文芸座・並木座・大塚名画座・フィルムセンターなどで邦画・洋画問わず新旧の映画を浴びるように観まくる。 20代後半、“シネマトグラフ"という同人誌の創刊にかかわり、映画評論家としてキネマ旬報・ぴあなど様々な媒体に寄稿する。この頃からダーティ工藤と名乗るようになる。'02年には故工藤栄一監督の聞き書きをまとめた「光と影 映画監督工藤栄一」をワイズ出版より上梓。'04年には俳優丹波哲郎氏の膨大な聞き書きを6年かけてまとめた「大俳優 丹波哲郎」を上梓する。 映画は'77年、仲間と作った8ミリ映画『マッド・ハンター 恐怖の追撃』を初監督。長いブランクの後、'99年、自伝的カルトムービー『縄文式』をBOX東中野にてレイトショー公開、同年シネ・ヌーヴォ梅田にて公開。'00年、シニカルな連続殺人もの『殺人無頼帖』をアップリンクファクトリーにて限定公開。'01年には『縄文式』の続編『縄文式2』を中野武蔵野館にてレイトショー公開。'06年『ふたつの女』、『東陽片岡のあま〜い生活』がポレポレ東中野にてレイトショー公開。大阪では第七芸術劇場にてレイトショー公開。 2007年、新作映画『東陽片岡のルサンチマン』を完成。 2008年1月12日〜25日まで、旧作特集と共にアップリンクXにてレイトショー公開 大阪では2月9日〜22日まで旧作2本立てグラインドハウス形式でロードショー。 現在、故石井輝男監督のドキュメント映画『石井輝男映画魂』を準備中。 新作映画本として『新東宝大蔵時代大全』を準備中。 日本映画監督協会会員。 ブログ ダーティ工藤の映画的生活http://blog.livedoor.jp/dkp123/ |